江ノ電由比ヶ浜駅から北へ7分ほど歩いていくと、緩やかな石畳の坂道があり、その先にあるのが「鎌倉文学館」。
加賀百万石藩主前田利家の系譜である、旧前田侯爵家の鎌倉別邸だった洋館です。
前田家の鎌倉別邸は、もとは明治23年に和風建築の館が建てられましたが、明治43年に焼失し洋風に再建。今ある建物はそれを昭和11年に全面改築したものなのだそうです。
ハーフティンバー様式に切妻屋根と深い軒出などを合わせた、和と洋が混在する独特なデザインの外観。内部もアールデコ調の洋風を基調としながら、随所に和風様式も取り入れた和洋折衷な建物で、国の登録有形文化財にもなっています。
第二次世界大戦後は一時期、デンマーク公使や佐藤栄作元総理の別荘としても使われていたことがあるそうですが、昭和58年に前田家から鎌倉市に寄贈され、以来現在に至るまで文学館として、古代から近現代までの鎌倉ゆかりの文学の作家・作品・その他資料を、蒐集・保存・展示しています。
この建物は、三島由紀夫の「春の雪」(昭和40.9~42.1 『新潮』)の舞台となったことでも知られており、
「青葉に包まれた迂路を登りつくしたところに、別荘の大きな石組の門があらわれる。王摩詰の詩の題をとって号した「終南別業」という字が門柱に刻まれている。
この日本の終南別業は、一万坪にあまる一つの谷をそっくり占めていた。先代が建てた茅葺の家は数年前に焼失し、現侯爵はただちにそのあとへ和洋折衷の、十二の客室のある邸を建て、テラスから南へひらく庭全体を西洋風の庭園に改めた。
南面するテラスからは、正面に大島がはるかに見え、噴火の火は夜空の遠い篝になった。由比ヶ浜までは庭づたいに五、六分で歩いてゆける。」
と、松枝侯爵家の別荘として、美しい館と庭が、鎌倉の壮麗な風光とともに描かれています。
豊饒の海 1 春の雪 | ||||
|
よく手入れの行き届いた庭は、なかでもバラ園がひと際美しく、春と秋のバラの季節は見事です。
バラに覆い囲まれるように、ひっそりと佇む「種蒔く人」の文学碑。
石組の門を抜けたすぐ先には、源頼朝が鶴を放ったという故事にちなんで命名された「招鶴洞」という切通しも、風情ある佇まいで迎えてくれます。
芭蕉の句碑など、庭内には所々に小さな文学碑が。
バラの外にも、四季折々の可憐な花々が心和ませてくれます。
昭和60年の開館以来38年に渡って、夏目漱石、芥川龍之介、与謝野鉄幹・晶子夫妻、川端康成、三島由紀夫などなど、鎌倉ゆかりの文士・文学作品の資料を蒐集・保存・展示してきた鎌倉文学館ですが、この度令和5年4月から大規模改修工事のため、長期休館期間に入ります。
その期間、なんと4年!
とってもとっても長い休館期間です。建物もずいぶん古いので、かなり本格的な大規模改修工事がなされるのでしょう。
この気品溢れる美しい文学館に入れるのもあとわずか。
入館は3月26日まで。あと1週間ほどになってしまいました。
少し寂しいですが、リニューアルオープンを楽しみに待っていたいと思います。
只今の企画展示は、「鎌倉文学年表 古典編」です。
鎌倉文学館 (現在休館中)
鎌倉市長谷1-5-3
☎0467233911
http://www.kamakurabungaku.com
開館時間 9:00~17:00(3~9月)
9:00~16:30(10~2月)
休館日 月曜日(祝日の場合は開館)
入館料 特別展(4~12月)
一般500円 小・中学生100・200円
収蔵品展(1月~4月)
一般300円 小・中学生100円
参考文献
『春の雪』三島由紀夫 1977.7.30 新潮社
ランキングに参加しています。ポチっとしていただけると嬉しいです。
ご覧いただきありがとうございました。