文学のお散歩

東京近郊・近代文学を中心に作家・作品ゆかりの地をご紹介します。

薮下通り

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団子坂上の鷗外記念館から、根津神社方面へ下っていく坂道が「薮下通り」。

     

昔は本郷台地の中腹から根津方面に抜ける間路であり、踏み分け道であったこの道は、

江戸時代の切絵図(区分地図)を片手に、日和下駄を履いて蝙蝠傘を持って、東京市中の路地や坂道を、方々歩いていた永井荷風(明治12.12.3~昭和34.4.30 小説家)の、お気に入りの道でした。

     

荷風はこの薮下通りを通って、敬慕する鴎外の観潮楼に通っていました。

今ではすっかり整備され、立派な住宅が立ち並び、踏み分け道の感はどこにもありませんが、かつては道幅も狭く、雪の日には積もった雪の重みでしなった笹竹で、通るのも困難になるほどの道だったそうです。

https://www.ndl.go.jp/portrait/img/portrait/6084_3.jpg

(永井荷風)

荷風は随筆「日和下駄」(大正3.8.1~4.6.1 『三田文学』)の「第九 崖」の中で、薮下通りについて、

 

絶壁の頂に添うて、根津権現の方から団子坂の上に通ずる一条の路がある。私は東京市中の往来の中で、この道ほど興味ある所はないと思つてゐる。片側は樹と竹藪に蔽われて昼猶暗く、片側はわが歩む道さへ崩れ落ちはせぬかと危ぶまれるばかり。足下を覗くと崖の中腹に生えた樹木の梢を透かして谷底のやうな低い処にある人家の屋根が小さく見える。

 

と記しています。

     

左手には上野谷中の森が黒く、右手には東京市街が一目に見晴らされたというこの道は、今ではもう眺望も利かず、ごくごくわずかに残る樹木の茂りが、ほんの少し往時を偲ばせるばかりです。

     

 

 

参考文献

荷風全集 第十一巻』永井壯吉 1993.9.28 岩波書店

『新潮日本文学アルバム23 永井荷風』1985.9.25 新潮社

『東京の文学風景を歩く』大島和雄 1988.4.25 風濤社

荷風随筆集 上

野口 冨士男 岩波書店 1986年09月16日頃
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また肖像画像は、国立国会図書館電子展示会「近代日本人の肖像」https://www.ndl.go.jp/portrait/より転載しています。