赤レンガ造りネオ・ゴシック様式の美しい建物です。
正面入口上部には「創立五十年記念慶應義塾図書館」とあります。
この図書館は、明治40年に迎えた慶應義塾開設50年を記念して建設されたもので(竣工は明治45年)、開館当時は地上2階地下1階、20万冊の収蔵能力と200席の閲覧室を持つ施設で、同時代の大学図書館としては、他に類を見ないものでした。
明治45年5月18日に行われた開館式には、800名もの来賓が訪れ、三田通の商家の軒先には塾旗が掲げられ、街をあげてのお祝いムードになるほどだったのだそうです。
この図書館が建設されたころの慶應は、ちょうど文科の刷新時期。森鷗外(文久2.1.19(陰暦)~大正11.7.9 小説家・医師)、上田敏(明治7.10.30~大正5.7.9 詩人・英文学者)らによって推挙された永井荷風(明治12.12.3~昭和34.4.30 小説家)が教授に就任し、『三田文学』(大正5.2~)の刊行も始まり、以後「三田派」と呼ばれる文学的系譜が展開されていく時期でありました。
(永井荷風)
水上滝太郎(明治20.12.6~昭和15.3.23 小説家・実業家)、久保田万太郎 (明治22.11.7~昭和38.5.6 小説家・俳人)、堀口大學(明治25.1.8~昭和56.3.15 詩人・仏文学者)、佐藤春夫(明治25.4.9~昭和39.5.6 詩人・小説家)等々・・・数々の三田の文人は、みなこの図書館で書に耽り、文学の研鑽に励みました。三田派の作風は、優美壮麗なこの図書館に似つかわしい、芸術性の高い耽美的なもので、当時文壇の主流であった露悪的な自然主義の風潮に、一石を投じるものとなりました。
しかし、この美しい図書館も、昭和20年の空襲で大きな被害を受けます。貴重な蔵書の大部分は疎開させてあったので、資料の喪失は最小限の被害ですみましたが、屋根が抜け、鉄骨がむき出しになった図書館が元の姿を取り戻したのは、戦後昭和24年の改修工事を待たなければなりませんでした。
その後、近年(平成29~令和元年)の大規模な耐震改修・保存修理工事を経て、現在に至ります。初期建築部分は昭和44年に、国の重要文化財に指定されました。
正面に掲げられた大時計。文字盤には数字ではなく、ギリシャ語で「TEMPUS FUGIT」(時は過ぎゆく)。
中に入ると、玄関ホール左側に「手児奈像」。
『万葉集』などに見られる「真間の手児奈」です。慶應の国文では、『万葉集』や芸能史を研究した折口信夫(明治20.2.11~昭和28.9.3 民俗学者・国文学者・歌人)の学問、「折口学」が脈々と受け継がれています。
階段踊り場には、慶應の塾章であるペンをかざした女神が、鎧をまとった武士の前に現れる「CALAMVS GLADIO FORTIOR(ペンは剣よりも強し)」のステンドグラス。
2階は現在「福沢諭吉記念慶應義塾史展示館」として、無料で一般公開されています。
1階玄関ホール右側は「カフェ八角塔」。
一般の方も利用できる、憩いの喫茶室です。
人気メニューはカレーの「コルリ」。
「コルリ」という名前は、福沢諭吉が日本に初めてカレーを紹介したとき、「Curry」を「コルリ」と訳したことに由来しているそうです。
スパイスの香り高いキーマカレーは、三田といえばの「山食カレー」とはひと味違った大人のカレーといった感じ。
スイーツの人気メニューは「自家製プリン」。
しっかり固めのレトロプリン。甘さ控えめのこちらも大人味です。
サイフォンで丁寧にいれるコーヒーもポットサービスなので、ゆっくりとくつろげるようになっています。
他にも、「慶應義塾アート・センター」(南門・正門向い)や「KeMCo 慶應義塾ミュージアム・コモンズ」(東館横辺)の、企画展とコラボした特別メニューも、会期ごとに意匠を凝らして提供されています。
メニュー票は昔懐かしい図書の貸出カードを模したもの。
この図書館の他の部分は、今も現役の図書館(書庫)として稼働中ですが、新館が地下書庫に至るまで、全冊開架であるのに対し旧館は閉架。書庫に入れるのは、塾内でも大学院生・教職員のみとなっています。
東京都港区三田2-15-45 慶應義塾大学三田図書館旧館2階
☎0354271200
開館時間 10:00~18:00
休館日 日曜日 祝日 夏期一斉休暇 年末年始
入館料 無料
カフェ八角塔
東京都港区三田2-15-45 慶應義塾大学三田図書館旧館1階
☎0354430377
営業時間 10:00~18:00
定休日 日曜日 祝日 夏期一斉休暇 年末年始
参考文献
『三田文学の系譜』中村三代司・松村友視 1988.12.7 三弥井書店
『三田の文人』慶応義塾大学文学部開設百年記念「三田の文人」展実行委員会 1990.11.15 丸善
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