自由が丘駅正面口を出て右、お洒落なショップ建ち並ぶカトレア通りを、5分ばかり進んで行くと、ふと駅前の喧騒が晴れ、静かな住宅地の趣になり、右手に落ち着いた古民家が現れます。
突然、タイムスリップしたかのような景色。とても自由が丘とは思えない異空間です。
ここは「古桑庵」という茶房ギャラリー。
小説家松岡譲(明治24.9.28~昭和44.7.22 小説家)と友人の渡辺彦が、隠居後2人が楽しむ茶室として、昭和29年に作った建物です。
かつては住居として使われていたそうですが、平成11年に人形作家の渡辺芙久子が茶房としてオーブン。現在は、彦の孫で芙久子の娘にあたる方が、引き継いで運営しています。
「古桑庵」という名は、松岡譲が命名したもの。
松岡譲は、芥川龍之介(明治25.3.1~昭和2.7.24 小説家)、菊池寛(明治21.12.26~昭和23.3.6 小説家・劇作家)、久米正雄(明治24.11.23~昭和27.3.1 小説家)らとともに、東京帝国大学在学中に第三次『新思潮』(大正3.2.12~9.1)第四次『新思潮』(大正5.2.15~6.3.15)を創刊。
芥川、久米らと、早稲田の漱石山房の門をくぐり、漱石の門下生となった人物です。
松岡譲は、漱石の娘婿としても知られています。
若い学生であった松岡が、漱石山房に足しげく通ううち、漱石の長女筆子と恋仲になり結婚したわけですが、その結婚にはひと悶着がありました。
筆子に恋したのは、最初は友人の久米正雄。けれども筆子の心は松岡に傾き、結局、この「古桑庵」の命名者松岡譲が、筆子の夫・漱石の娘婿となったのです。
この久米・筆子・松岡の三角関係は、久米の「蛍草」(大正7.3.19~9.20 『時事新報』)「破船」(大正11.1~12 『主婦の友』)などの、一連の失恋小説で有名になり、失恋することを「久米る」なんていう流行語まで出るほど、世間の注目を集めることになりました。
当時の読者の目は久米に同情的。恋愛では勝者となった松岡でしたが、この件での世間の風当たりは強く、その後一時期筆を断つことにもなったそうです。
そんな松岡ゆかりの「古桑庵」。
現在では、自由が丘の中でも珍しい古民家カフェとして、いつも人足が絶えない人気店となっています。
建物はその名の通り、桑の古材を用いて建てられ、その材料は松岡の郷里長岡から取り寄せられたのだそうです。
洋風の洒落た店の多い自由が丘で、古民家の和の佇まいは、とても新鮮に映ります。
靴を脱いで上がるカフェは、ショッピングで歩き疲れた足を解放するのにも最適。
メニューには、抹茶や抹茶オーレ、あんみつなどなど、和のカフェメニューが並びます。
いちばん人気は「古桑庵風抹茶白玉ぜんざい」。
お抹茶の中に、餡子と白玉が入っています。
抹茶のほろ苦さと餡子の甘さが、歩き疲れた体に優しく沁み渡ります。
ギャラリーを兼ねた店内には、人形や骨董品も。
古民家に、古いお雛様がよくお似合いです。
ギャラリースペースでは、各種企画展示や落語会なども行われ、趣味を堪能するスペースとしても活用されています。
古桑庵
東京都目黒区自由が丘1-24-23
☎03-3718-4203
営業時間 11:00~18:30(平日12:00~)
定休日 水曜日
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