江ノ電長谷駅を海側へ出て、極楽寺方向へ進んで行くと右手に、まるでタイムスリップしたかのような、古色を帯びたお店が見えてきます。
「力餅屋」。
創業は江戸元禄年間の、由緒ある和菓子屋さんです。
平安時代の武将、権五郎景政の武勇を伝え偲ぶよすがにと、代々伝えられてきた「権五郎力餅」が名物。近くには権五郎の御霊を祀った御霊神社もあります。
「権五郎力餅」。
つきたてのお餅に、控えめな程よい甘さのこし餡が載っています。
箱にきっちり詰まっていますが、ひとつひとつは小ぶりなお餅です。
餡とお餅のバランスがよく、何個でも食べられてしまいそうです。
この権五郎力餅は、鎌倉文士たちにもこよなく愛され、大正5年、横須賀海軍機関学校に英語教師として勤めるため、東京田端から鎌倉に移り住んだばかりの芥川龍之介(明治25.3.1~昭和2.7.24 小説家)は、友人久米正雄(明治24.11.23~昭和27.3.1 小説家)に宛てた書簡(大正5.12.20)で、
君が来るかと思つて待つてゐたが来ないので少し失望した、少しだよ。今力餅をくひながら小説を書いてゐる、鎌倉権五郎のエネルギイを借りやうと思つて
と書いています。
クールな見かけによらず大の甘党の芥川は、越して来るやすぐに、鎌倉名物の権五郎力餅に舌鼓を打ちながら、執筆に精をだしていたようです。
(芥川龍之介)
また、長谷に住んでいた川端康成(明治32.6.14~昭和47.4.16 小説家)は、散歩途中にお金も持たずに、ふらりと立ち寄ってしまったこともあったそう。かのノーベル賞作家も、美味しいお餅の前では、財布を忘れて愉快なサザエさん的なことをやっていたかと思うと、ちょっと微笑ましいですね。
権五郎力餅は、創業以来手作り無添加。つきたてお餅は日持ちがしませんが、日持ちのする求肥の力餅もあるそうです。
店内も趣があって素敵。昔懐かしいお菓子屋さんといった風情です。
最近のレトロ好きの若い子が見たら、「エモい」というのでしょうか。
お店を出ると、もう海はすぐそこ。
文士たちも、波音を聞きながら、力餅を味わったのでしょうか。
力餅屋
神奈川県鎌倉市坂ノ下18-18
☎0467220513
https://www.chikaramochiya.com
営業時間 9:00~18:00
定休日 水曜日 第3火曜日
参考文献
『芥川龍之介全集 第16巻』芥川龍之介 1997.4.8 岩波書店
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