文学のお散歩

東京近郊・近代文学を中心に作家・作品ゆかりの地をご紹介します。

両国小学校と吉良邸跡~芥川龍之介生育の地その2

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両国4丁目にある墨田区立両国小学校は、もとは両国回向院の民屋を借り受けて開校された学校で、かつては江東尋常小学校と呼ばれていました。近くに養家のあった芥川龍之介(明治25.3.1~昭和2.7.24 小説家)の母校としても知られている学校です。

     

小学校の一角には卒業生芥川を記念して、芥川の年少文学の名作「杜子春(大正9.7.1 『赤い鳥』)の文学碑が設置されています。

     

     

小学校時代の芥川は、非常に読書欲が旺盛で、「小説を書き出したのは友人の煽動に負ふ所が多い」(大正8.1.1『新潮』)によると、

 

小学校に通つてゐる頃、私の近所にあつた貸本屋の高い棚に、講釈の本などが、沢山並んでゐた。それを私は何時の間にか端から端迄すつかり読み尽してしまつた。やがて、さうしたものから導かれて、まづ「八犬伝」を読み、「西遊記」「水滸伝」を読み、馬琴のもの、三馬のもの、一九のもの、近松のものを読み始めた。

 

のだそうです。

また、「愛読書の印象」(大正9.8.1『文章俱楽部』)によると、「子供の時の愛読書は『西遊記』が第一」で、同じく愛読していた「水滸伝」にいたっては、「一時は『水滸伝』の中の一百八人の豪傑の名前を悉く暗記してゐたことがある。」というほどの入れ込みよう。

 

https://www.ndl.go.jp/portrait/img/portrait/0224_4.jpg

(小学校時代の芥川)

さらには早くも小学生時代から執筆活動をはじめ、友人と回覧雑誌『日の出界』を発刊。回覧雑誌というのは、各自が書いた原稿を綴じて表紙を付け、回し読みをするもので、同人誌の原始的な形態の物でした。

『日の出界』には小説「ウエルカーム」や「西洋お伽噺」、「冒険談不思議」などなどの創作物を書いています。小学生の頃からすでに、作家としての資質を発揮していたことを十分伺うことができます。

 

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇

芥川 龍之介 岩波書店 1990年08月16日頃
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蜘蛛の糸/杜子春改版

芥川龍之介 新潮社 2010年04月
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またここ両国小学校と、芥川家のあった小泉町の間の松坂町には、赤穂浪士たちが討ち入った「吉良邸跡」があります。

芥川の生まれ育った場所といえば、築地の生誕の地の近くには、「浅野内匠頭邸跡」が、

masapn2.hatenablog.jp

そして生育の地近くには、この「吉良邸跡」。

     

「生誕の地」と「生育の地」ともに、忠臣蔵ゆかりの地という、おもしろい偶然もあるものです。

     

現在この「吉良邸跡」は「本所松坂町公園」として、こぢんまりと整備されていますが、元は2550坪の広大な屋敷だったそうです。

     

吉良上野介義央(寛永18.9.2~元禄15.12.15 高家旗本)は、忠臣蔵ではすっかり悪役に仕立てられていますが、新田の開発や塩業の発展に尽力するなど、領地の三河ではたいへん評判が高く、善政の殿様として親しまれているのだそうです。

     

偶然にも、浅野邸近くで生まれ吉良邸近くで育った芥川は、長じてのち、討ち入り後の大石内蔵助心境の変化を綴った「或日の大石内蔵助(大正6.9.1『中央公論』)を書きました。

芥川の描く内蔵助は、「亡君の讐」をかえしたあとの満足感を、快い春の暖かさの中に感じていたものの、赤穂浪士が復讐の挙を果たして以来、江戸中に仇討ちが流行したことを聞くと、春のぬくもりが減却していくようす、忠義の士が褒めたたえられる一方で、変心した者が貶められること、自分が仇家を欺くため放埓の限りを尽くしたことに対する無暗な称賛を聞くうちに、胸の内の春風がみるみる吹き尽くされていくようすが描かれています。非常に細かい心理の移り変わりや、いいようのない孤独感を、芥川らしい明晰な観察眼で描いた小説となっています。

 

或日の大石内蔵之助/枯野抄

芥川龍之介 岩波書店 1991年02月
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両国小学校(旧江東尋常小学校)

東京都墨田区両国4-26-6

吉良邸跡(本所松坂町公園)

東京都墨田区両国3-13-9

 

参考文献

芥川龍之介全集 第二巻』芥川龍之介 1995.12.8 岩波書店

芥川龍之介全集 第四巻』芥川龍之介 1996.2.8 岩波書店

芥川龍之介全集 第六巻』芥川龍之介 1996.4.8 岩波書店

芥川龍之介事典』菊地弘・久保田芳太郎・関口安義編 明治書院

芥川龍之介の顔』松本哉 1988.2.15 三省堂

『年表作家読本 芥川龍之介』鷺只雄 1992.6.30 河出書房新社

『新潮日本文学アルバム13 芥川龍之介』1983.10.20 新潮社

 

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