大正2年創業の和菓子屋さんです。
「どらやき」が有名な、現在でも行列の絶えない人気店です。
創業者は谷口喜作(明治35.6.16~昭和23.5.25)。
俳人でもあり、河東碧梧桐(明治6.2.26~昭和12.2.1 俳人)主宰の俳句雑誌『海紅』(創刊大正4.3)や、『三昧』(創刊大正14.3)などに、句やエッセイを掲載したこともある、文人趣味のある店主でした。
文化人との交流も多く、滝井考作(明治27.4.4~昭和59.11.21 小説家・俳人)の随筆集『風物誌』(砂子屋書房 昭和13.8.25)や、短編集『積雪』(改造社 昭和13.12.18)などの装丁にも関わっている人物です。
「うさぎや」を贔屓にする文士も多く、殊に永井荷風(明治12.12.3~昭和34.4.30 小説家)は「どらやき」を、
芥川龍之介(明治25.3.1~昭和2.7.24 小説家)は店主の名を冠する、「喜作最中」をこよなく愛したそうです。
芥川は、大正13年8月13日付書簡で、
「冠省鎌倉に来てうまいお菓子なく困り居り候間お手製のお菓子お送り下され度願上候」
と書いて、自筆で食べたいお菓子の絵を描き、喜作に宛てて送っています。
書簡に描かれた絵を見ると、なんでも餡を求肥で包んだお菓子のようで、ご丁寧に「横カラ見タ所」「割つた所」の二つの絵。「牛皮(ママ)」には「風味あり」と注が施してあります。さらには、
「これを二折りにして五円におこしらへ下され度候」
と値段交渉まであって、細かい注文を付けられるだけ、懇意にしていたのが伺えます。
この創作希望和菓子?のほか、もちろんお気に入りの「最中」も注文しています。
大正時代のメールオーダーですね。
文士に愛されてきた「うさぎや」の和菓子。
店頭で注文すると、受け付けた店員さんが、
「モ、ド、サン、サン。」
と店の奥に声をかけます。
すると待つ程なく、最中とどらやきが3個ずつ、きれいに箱に収められてやってきます。
「モ、ド、サン、サン。」は、「モ=最中。ド=どらやき。3個。3個」を意味していたのですね。行列のできる繁盛店ならではの、回転を速くする符丁のようなものでしょうか。
本店はもう100年を超える老舗となりましたが、近年裏路地に今風の「うさぎやCAFE」もオープンし、現代の若者にも人気のようです。
参考文献
『芥川龍之介全集 第20巻』芥川龍之介 1997.8.8 岩波書店
『芥川龍之介事典』菊池弘・久保田芳太郎・関口安義編 198512.15 明治書院
東京都台東区上野1丁目10-10
☎0338316195
営業時間 9:00~18:00
定休日 水曜日
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